『コクリコ坂から』(2011年)

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事実を小出しにせず、最後にまとめて大どんでん返しにしたほうが盛り上がったと思うがなぁ。最後は軽いアクション場面で無理やり盛り上げた感がある。

特にSFX場面もないので、実写版のアイドル映画にしたほうが似合いそう。原作漫画から大きく設定を変えているらしいし、画風もぜんぜん変えているということもある。

カルチェラタンという高校の文化部部室棟も映画独自設定らしいが、実際にあったなら女の子には見せられない「モノ」がたくさん詰まっていそうだ。男子高校生なんてそんなもの。良くも悪くも、この映画は高校生活をだいぶ美化して描いているなと。清く正しく美しい高校生活。

1960年代前半という時代設定も映画独自ということだが、いまいち映画から60年代らしさをあまり感じられなかったのであった。まず主人公の女の子の雰囲気が60年代っぽくないのだな。

宮崎駿の息子、宮崎吾朗の監督第2作目。前作の『ゲド戦記』よりはずっと良い映画だと思う(というか前作がアレだった)。ただ、学園青春ものなら『耳をすませば』のほうが出来が良いかなと。

『夢と狂気の王国』(2013年)

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風立ちぬ』と『かぐや姫の物語』制作時におけるスタジオジブリの様子を描いたドキュメンタリー。といっても、『かぐや姫の物語』についての話は「スケジュールどおりに進まないなぁ」みたいな話ばかりで、監督の高畑勲氏もほんのちょっとしか登場しない。

風立ちぬ』の制作はこの映画上は大きな問題なく進んでいるように見える(実際にどうだったのかは知らない)。監督の宮崎駿氏も総じて機嫌が良さそうだ。宮崎駿氏とプロデューサーの鈴木敏夫氏の貧乏ゆすりも今回はそれほど目立たない。

ギリギリの状況でつくっていたように見えた『「もののけ姫」はこうして生まれた。』のほうが、ドキュメンタリーとしては見せ場は多かったように思う。もっとも、『もののけ姫……』のほうは6時間以上の長編だから、単純な比較はできないけど。

そういった意味では、難航していたであろう『かぐや姫の物語』の密着ドキュメンタリーのほうが面白そうなのだが、高畑勲氏は取材されるのを嫌がったのだろうなぁ。

宮崎駿氏が愛煙家なので、スタジオジブリ分煙化は進んでいなさそうだ。その点は前世期的な仕事場だと思った。彼の部屋だけが特別なのかもしれないが。

このあと2014年に制作部門が解散したということもあり、古き良き(?)スタジオジブリのほぼ最後の姿を記録した映画ともいえるだろう。

『ゲド戦記』(2006年)

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原作の改変というより、原作の要素を切り貼りしてできた映画という印象。もうひとつの隠れた原作という『シュナの旅』は、主に服装や動物を参考にしているのだろう(『シュナの旅』は『ナウシカ』や『もののけ姫』の元ネタにもなっている)。

原作の『ゲド戦記』を読んでいる人にとっては違和感ありありだろうし、読んでいない人にとっては何がなんだかよく分からないのではないか。原作に付け足した要素に説得力をまるで感じなかったし(魔法の剣とか)、登場人物の行動にも納得できない点が多かった。

原作では黒人中心の話なのだが、映画ではまったく黒人が出てこないのも残念。良くも悪くもいつものジブリ映画の雰囲気である。顔にひどいヤケドがあるはずのテルーも結局「宮崎駿系」美少女だし。そういえばジブリ映画に黒人はほとんど出てこないね。

宮崎駿の息子の宮崎吾朗の初監督作品。監督の実力以上の作品をつくろうとして失敗した感がある。周りの人からごちゃごちゃ言われただろうと想像するが、それが悪い方向に作用してしまった部分もあるのかも。

『思い出のマーニー』(2014年)

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ジブリの原点のひとつともいえる世界名作劇場を想い起こさせる雰囲気の映画。謎解き部分は素直に楽しめたし、驚いた。

ただ、主人公杏奈の「こじらせ」具合が見ていて痛々しくて、共感しにくかった部分もある。いやもちろん、こういう人もいるのだろうけど。

そこで、原作の小説版『思い出のマーニー』も読んでみた。うむ、なるほど。原作版アンナ(原作は舞台がイギリスなのでイギリス人)は、映画版杏奈ほどは「こじらせ」ていないね。このくらいの内向的な子どもはよくいる。これなら共感できる。

杏奈についてもうひとつ気になったのは、映画版杏奈と原作版アンナの年齢の違い。映画版杏奈は中学1年生だそうだが、原作版アンナは小学3、4年生くらいに思える。映画版杏奈は見た目は妙に色っぽい(?)のに行動が子どもっぽいところがあったので、そのへんも共感しにくかった理由のひとつかも。

映画は(舞台をイギリスから日本に変更したことも含め)原作をかなり改変しているが、そのわりにはそこそこうまくまとまっているようには思った。ただ、映画版だと「輪」の外側とか内側とかの話が冒頭にしか出てこないので、最後にもう一度言及したほうがまとまりが出た感も。

監督は米林宏昌。前作の『借りぐらしのアリエッティ』よりは良い映画だったのでは。

映画版の挿入曲としてなぜフランシスコ・タレガの「アルハンブラの思い出」 が使われたのかが不思議だったのだが、どうやら原作にスペインに関する言及が少しあるようだ。

『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994年)

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観終わった後この映画をどう解釈すればよいか悩んでいたところ、昭和時代の学生運動や左翼運動の隠喩という説を読んで、なるほどと思った。監督の高畑勲の真意は知らないが。

面白い場面は多かったけど、全体として面白かったというとどうかなぁ。いずれにせよこの内容で2時間は長いよ。90分くらいにまとめられなかっただろうか。

さて、こんなに苦労(?)してつくった多摩ニュータウンなのに、今では高齢化で悩んでいるそうな。タヌキの祟りではないと信じたい。多摩ニュータウンの住民が観たら、あまりいい気分はしなさそうな映画ではある。

『おもひでぽろぽろ』(1991年)

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高畑勲監督作品。農村問題の描き方は今見ると陳腐に感じられるのだが、公開当時のバブル期だとそうでもなかったのかな。また、主役の(大人時代の)タエ子がウブすぎるのも気になった。相手役のトシオの下心なんて最初から見え見えだったと思うがなぁ。

原作の漫画を読んでいないので分からないのだが、このへんは原作では細かな描写が違うのかもしれない。

見どころは子ども時代だろう。特に最後の貧乏な「あべくん」の話は良かった(彼はあれからどういう人生を送ったのだろうか)。子ども時代の話は実際にあったことを基にしているのだろうと想像する。主人公も漫画の原作者も女性なので、女性のほうが感情移入しやすそうな内容ではある。

大人時代のタエ子に「ほうれい線」が見えるのは現実味があって良いと思った。逆に、子ども時代の子どもたちはみんなかわいすぎるかなぁ。いくら都会っ子であっても、当時はもっとクソガキだらけじゃなかったかな。

『火垂るの墓』(1988年)

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上映当時観たような気がしていたが、結局観ていなかったようだ。で、観た。監督の高畑勲が語っていたとおり、これは反戦映画ではないね。

なんらかの理由で家族や親戚を頼れない状況になった場合、現代でも起こり得る悲劇だと思う。というか実際に起こっているだろう。他人事とは思えないので観ていてつらかった。

確かに兄(清太)がうまくやれば起こらなかった悲劇なのだろうが、私は清太の気持ちもよく分かるんだな。私は彼を責める気にならない。でもまあ、もうちょっと叔母さんのご機嫌を取ってもよかったろうなぁ。

野坂昭如の原作は読んでいないが、アニメ化としては文句のない出来栄えなのでは。特に妹(節子)役の声優を見つけたことは最高の仕事のひとつだろう。