『かぐや姫の物語』(2013年)

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監督の高畑勲が言いたかったことを全部理解できたとは思わないのだが、人間賛歌、自然賛歌の映画として見た。欠点はあっても、いや欠点があるからこそ、生命はそれ自体が美しい、みたいな。そういった意味では漫画版『風の谷のナウシカ』と通底するものがありそうである。

それでも、月に帰ることを望んでしまった頃のかぐや姫は本当につらそうだったなぁ。あんな状況なら月に帰ったほうが幸せなんじゃないかとも思ってしまった。ただ、月の世界はある意味「死の世界」(極楽浄土)なのだろう。仏教関係者、特に浄土宗や真宗の人はこの映画をどう見るのかな。

周囲の人間を色と金で惑わせ、人間のイヤな面をかぐや姫に見せたのは、月の王の策略なのだろうね。すべてお釈迦さま(阿弥陀さま?)の掌の上の出来事。

――と、いろいろ書いたけど、特に最後のほうの内容に私はイマイチしっくり来なかったのが正直なところ。ありのままの人間や自然に対して、私は高畑勲ほど価値を見出していないのかも。

さて音楽は、高畑勲とは初めての顔合わせになる久石譲。もっとも、この映画で一番印象的な曲は、高畑勲が作曲したという『わらべ唄』や『天女の唄』だと思った。

『風立ちぬ』(2013年)

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最後はとにかく泣けた。こんなに泣けた宮崎駿作品はたぶんこれだけ。堀辰雄の『風立ちぬ』の内容を脳内補完(?)してしまったからかもしれない*1

大人向け作品としてつくられたとのことで、生きる希望が湧くというよりは、人生のたそがれを感じさせる内容である。ジブリのあの絵柄が最適だったかどうかはよく分からない。ハリウッドならアニメではなく実写でうまくつくったであろうと想像する。

庵野秀明の声が良かったかどうか。うーん、結局泣けたから悪くはなかったんじゃないのかな。喫煙場面が多すぎるという批判もあって、まあ確かに多かったなと。それが当時の実態に近かったのだろうけど。

菜穂子関連の話はまったくの創作なので、主人公の堀越二郎の名前を変えたほうがよかった気もするが、変えたくなかった宮崎駿の気持ちも分かる。

音楽は例によって久石譲。『旅路』はマンドリン(かな?)の印象的なかなりヨーロッパ風の音楽だけど、ヨーロッパと縁の深い内容なのでこれはこれで良いのだろう。

『菜穂子』はロマンティックな曲。特にピアノが印象的な『出会い』が好き。

主題歌は、荒井由実の『ひこうき雲』。映画の雰囲気に合っていると思う。この曲は有名なのでリンクするまでもないな。

*1:堀辰雄の『菜穂子』の内容も少しだけだが加えられていると思った。

『借りぐらしのアリエッティ』(2010年)

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人間を恐れつつも人間の食料や生活用品を「借り」て暮らしている小人たちの物語。監督は米林宏昌で、宮崎駿が企画と共同脚本を担当している。メアリー・ノートンの小説『床下の小人たち』が原作。

映画では舞台を現代日本に移しているが、小人たちはコーカソイドのように見える(つまりたぶん原作のママ)。途中から出てくるスピラーという名前の小人はモンゴロイドか何かのようだけど*1

評判どおり地味といえば地味な作品。設定が面白いので、適当にエピソードをつくって連続ドラマ形式にしても面白いかも。一話完結にしてもいい。ネタが尽きたら適当に新しい家に引っ越せばいいし。

小人の生活についての細部の描写に力を入れている。個人的には、壁に飾る絵の代わりに人間の切手を使っているのが愉快だった。私が気が付かなかった小ネタもたくさんあるのだろう。映画を見るまでは主人公アリエッティの頭から妖精みたいな触覚が生えているのかと思っていたが、あれは洗濯バサミらしい*2

小人は魔法みたいなものは使えないが、とにかく軽業師のように身軽である。小人は体重が軽いので、人間より運動神経が発達していてもおかしくないかもね。ただ、小人と人間の間で言葉が通じるのはいかにもファンタジーだなと。

人間側の主人公である翔は心優しい人のように見えるのだが、突然アリエッティに対し厳しいセリフを言う場面にはちょっと驚いた。「人間と小人、どちらが滅びゆく種族なのか」というこの映画の主題を匂わせたかったセリフだろうが、この映画ではその主題をうまく表現できていなかったように思うなぁ。

さて、音楽はセシル・コルベルというケルト音楽系のハーブ奏者が担当している。この人はとにかく声がきれいだね。片言の日本語で歌う主題歌 “Arrietty's Song” よりも、オープニングに流れる “The Neglected Garden (荒れた庭)” のほうが好きかなぁ。

ただ、セリフのある場面で歌入りの曲を流すのは感心しなかった。

*1:彼は「借りぐらし」をしていない野生児と思われる。

*2:ただ、洗濯バサミにしては小さいのでは。クリップくらいの大きさである。

『崖の上のポニョ』(2008年)

崖の上のポニョ [DVD]

奇想天外な物語だけど、子どもの向けの絵本とかにはしばしばこんなぶっ飛んだ展開の話があるよね。

ただ、物語には多くの隠喩を含んでいるようだ。ネットではオカルトっぽい解釈をしている記事もあって、それらがすべて正しいとは思わないけど、確かに場面によっては悪夢のような不気味さを感じなくもない。宮崎駿もある程度は意識してそういうことを盛り込んでいると思われる。

というわけで、そういうことをどのくらい意識して鑑賞するのが「正しい」のか迷う作品でもある。

作画については、グランマンマーレのバタ臭さはこれまでの宮崎駿作品にはなかったように思った。

さて、音楽はいつものごとく久石譲。例の主題歌はともかくとして、これまでのジブリ作品とは作風が少し変わったように思う。どこかで聴いたような旋律がいくつか出てくるような。

印象に残っているのは、おそらく一番重要な曲である『深海牧場』もしくは『グランマンマーレ』あたりの曲。

『ハウルの動く城』(2004年)

ハウルの動く城 [DVD]

前半は楽しく観たのだけど、後半は内容がよく分からなくなって置いてけぼり状態……。あとでネットでいろいろ調べてそれなりに意味は分かったのだけど、初見でしっかりと内容が分かる人はどれくらいいるのかな。宮崎駿作品でこんな気分になったのは初めて。

特に、肝心の「動く城」の仕様がよく分からなかったのであった。あと20分くらい時間を延長すると、私でも分かるように説明できたのかも。

木村拓哉の声優ぶりが話題になったが、演じたハウルがある意味スケコマシ(?)的なイヤなヤツなので、役柄とよく合っていたような気がする。もしかして、キムタクが演じたからイヤなヤツに見えたのかもしれないけど。

さて、音楽はいつものごとく久石譲だが、主題歌は前作の『千と千尋の神隠し』に引き続き木村弓が作曲している。歌うは主人公のソフィーを演じた倍賞千恵子

サントラの中で特に印象的なのは、久石譲が作曲した『人生のメリーゴーランド』だろう。ワルツ調の優雅な曲。

『千と千尋の神隠し』(2001年)

千と千尋の神隠し (通常版) [DVD]
濃密で独特な世界観に圧倒された。よくぞこんな世界を思いついたねぇ。宮崎駿はこの作品で本当の巨匠扱いされるようになったと記憶している。彼の最高傑作のひとつなのは間違いない。

これまでの宮崎作品と違うのは、主人公の女の子(千尋、別名「千」)があまりかわいくないこと(失礼)。そのぶん萌え要素(?)が後退して、老若男女が楽しめる作品になったと思う。どちらかと言うと、相手役のハクの美少年ぶりに萌える映画なのかも。

好きな場面は最後の「大当たり!」のところ。カタルシスを感じる。好きな登場人物は頭(かしら)。効果音が面白い。

さて音楽を担当しているのは、もちろん今作も久石譲。ただし、主題歌の『いつも何度でも』は木村弓が歌と作曲を担当している。透明感のある歌声がこの映画に合っていると思う。

ただ、久石譲が作曲した『いのちの名前』も遜色のないできなんだよね。映画では歌なしのインスト版が使われていて、歌入りはシングルとして発表されている(サントラには入っていない)。久石は悔しかったんじゃないかなぁ。

『ふたたび』も印象的な佳曲。

千と千尋の神隠し―Spirited away (ロマンアルバム)
ところで、ジブリ映画公開時にはたいてい『ロマンアルバム』というムックがつくられるのだが、この映画のものは特に充実している。

興味深いのは作画監督安藤雅司へのインタビューで、どうやら彼は作品の出来に満足していないもよう。作画の表現方法の方向性について宮崎駿と意見が合わなかったそうな。宮崎駿の感覚志向に対し、安藤雅司のリアル志向という違いがあるとのこと。

千尋の活躍ぶりにも不満があったようで、彼は千尋が理想化されすぎていると感じているそうな*1。確かに映画後半の千尋はスーパーヒーロー(ヒロイン)的な大活躍を見せる。私自身は気にならなかったけどね。

*1:ちなみに、宮崎駿自身が初期構想段階で描いていた千尋の顔は映画版よりももうちょっとかわいらしい。映画版の千尋の顔は安藤雅司の意向と思われる。

『耳をすませば』(1995年)

耳をすませば [DVD]
いやー、甘酸っぱいね、青春賛歌だね。少女漫画が原作ということもあり、やっぱり少女向きの内容。まだ純真な女の子なら、こんな男の子と出会って恋をしたいと思うだろう(たぶん)。

生活描写が細かいことには感心した。特に主人公の月島雫の自宅の狭くてゴチャゴチャした雰囲気とか。普通のアニメだとこのへんは省略したり美化したりしそうである。

雫は、中学生になった『ちびまる子ちゃん』みたいだなと。まあその要因は主に髪型なんだけど、けっこうズボラなところとか、しっかり者の姉がいるところとか。友人の原田夕子*1は、おさげ髪のたまちゃんか。

相手役の天沢聖司は、クールなようでいて意外に用意周到な策士だなと。彼の自宅は景観が見事だけど、懸造で耐震性が心配だったりして。

主題歌の『カントリー・ロード』をセッションするところは、大きな見せ場のひとつ。でも野暮なマジレスをすると、即興でこんな編曲を加えるのは不可能だよね。出だしのバイオリンの編曲は、即興どころかじっくり考えてもなかなか思いつかないよ。また歌の音程がちょっと不安定なところは現実味があってよいと思ったが、わざと音程を外して歌ったのではないような気もする。

脚本・絵コンテ・制作プロデューサーを宮崎駿が担当していて、監督は若くして亡くなった近藤喜文宮崎駿に何かと文句を言われながら監督するのはつらかったのではないかと想像する。この記事はちょっと泣ける。

実写版のアイドル映画にしても似合いそうな作品ではなかろうか。監督は大林宣彦あたりで。多少の特撮は必要になるけど。

*1:赤毛のアン』に似ていると思ったら、実際に似させているらしい。