『もののけ姫』(1997年)

もののけ姫 [DVD]
公開当時に観たはずだが、内容はすっかり忘れている。こんなに忘れるものなのかと自分で呆れるやら感心するやら。

舞台は日本の室町時代中期くらい。神が生きていた中世と神が死んだ近現代、自然保護と経済振興、そういった対立が本作品の主題だろう。そこに宮崎アニメらしくかわいらしいサン(もののけ姫)と、男も惚れそうになるくらい格好良い主人公アシタカ*1らの人間(神も含む)模様が絡む。

物語に深みを与えているのが、タタラ場の頭のエボシ。自然を破壊し神殺しもいとわない冷酷な面がある一方で、女たちに仕事を与え不治の病(おそらくハンセン病)の人たちを保護する慈善家の面もある。この近代人エボシをどう評価するか、アシタカは悩むわけだ。単純に自然保護を訴えている映画ではない。

宮崎駿作品の中でも、本作は屈指の傑作だと思う*2。これ以降は作風が良くも悪くもちょっと変わるような。

さて、音楽はもちろん久石譲米良美一が歌う主題歌はちょっと色物的に扱われている感もあるが、映画を観たあとでは名曲にしか聴こえなくなってしまう。ただ、2番のスキャット部分はイマイチかなぁ(映画ではスキャット部分は使われていないかな)。

オープニングなどに使われている重要曲が、『アシタカ聶記』。これも映画を観た後だと興奮せずにいられない曲。ただ、この手の日本的な曲は、どうしても坂本龍一を思い出してしまったりして。

最後の一番良い場面で使われるのが、叙情的なピアノの調べが印象的な『アシタカとサン』。ちょっとラフマニノフっぽいかも。

もののけ姫」はこうして生まれた。

「もののけ姫」はこうして生まれた。 [DVD]
浦谷年良氏がまとめた映画作成時のドキュメンタリー映像。書籍版もあってそちらのほうが若干情報量が多いようだが、映像の分かりやすさはやはり偉大だ。『もののけ姫』が気に入った人なら見て損はない。

宮崎駿はとにかく貧乏ゆすりがひどいね。タバコの量も多い。鈴木敏夫プロデューサーも貧乏ゆすりがひどい。ギリギリまで頭を使っているときはこうなっちゃうんだろうね。

事前につくられたイメージアルバムで使われていた和楽器(もしくは東アジアの楽器)が、本編のサントラではずっと少なくなっていた点が気になっていたが、これは宮崎駿の指示だった。「日本的なものができる前の話なんだから」「西欧調がよい」とのこと。

アフレコ場面では、声優たちの薄化粧の普段着姿が見られるのがうれしい。山犬モロ役の美輪明宏だけは服も化粧も気合が入っていたけど。エボシ役の田中裕子はかわいらしいねぇ*3

ヒイさま役の森光子は当時70代半ばだが、驚くほど若い。ただ、森光子も乙事主役の森繁久彌も今は鬼籍に入ってしまわれた。まあお2人ともかなりの長寿だったわけだけど。

映像版では付録として、宮崎駿アメリカ公開時の宣伝のためにアメリカを回ったときの模様が収められている。主に外国人記者からのインタビュー映像で、これはこれで面白い。

*1:村に残したカヤのことをたまには思い出してあげてください。

*2:強いて言えば、セリフが長くて聞き取りにくい部分があったのが難点か。

*3:ただファッションセンスはどうかな。

『風の谷のナウシカ』(1984年)

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ほぼ30年ぶりにこの映画を観る。内容はかなり忘れていた。

映画を観るに先立って初めて原作漫画を読んでみたのだが、漫画の最初の部分しか映画化対象になっていないことはともかくとして、うわさどおり内容もかなり違うね。漫画と比べると物足りないという感想を抱かれがちな、かわいそうな映画かもしれない。これだけ原作を改変してよくぞここまで内容をまとめたなとは思う*1

でも、ナウシカの屈託のない笑顔が見られる明るいハッピーエンドの結末はこの映画ならでは。これはこれで捨てがたい*2。もしこの映画の続編をつくることがあるのなら、漫画は無視してこの映画の世界観でつくってみてはどうだろう。

ともかく、世界自然保護基金WWF)が推薦している映画だけあって、自然保護と動物愛護を心がけたくなる映画である。そうそう、花粉症に悩んでいて年中マスクを愛用している私にとっては、瘴気まみれのこの作品の世界が他人事とは思えないような気も。

さて、音楽は久石譲で、いまの彼の原点であり大出世作でもある。彼の音楽がなかったら本作品の魅力は半減してしまうのでは、と思ってしまうほどこの作品の雰囲気に合っている。特に『オープニング』(イメージアルバムでいうところの『風の伝説』)は、久石譲の最高傑作じゃないかなぁ。

風の谷のナウシカ サウンドトラック はるかな地へ・・・
ナウシカ・レクイエム』(イメージアルバムでいうところの『遠い日々』)は、「ラーンランララランランラン♪」でおなじみの曲。冒頭部分はヘンデルの『サラバンド』から採られているようだ。

『鳥の人』(もしくは『はるかな地へ...』)は、何か良いこと(?)が起きたときに流れる曲。これも佳曲。

安田成美が歌う有名なシンボルテーマソング(細野晴臣が作曲)は、この映画ではまったく使われていない。つまり、この映画には歌入りの曲は使われておらず(「ランララ」はともかく)、これは宮崎駿作品の中ではこの作品だけのはず。これはこれでストイックで魅力的で、特にこの映画のエンディングは感動的な仕上がりだと思う。

漫画『風の谷のナウシカ』(1982年-1994年)

風の谷のナウシカ 1 (アニメージュコミックスワイド判)

特に最初のほうはうわさどおりちょっと読みにくいし、コマ割りやセリフの間が単調で盛り上がりに欠ける感もある。でも徐々に改善されるし、読んでいるほうもたぶん慣れる*3。ただ、アクションシーンは何をやっているのか分かりにくいことが最後まで多かったような。

映画との一番大きな違いは、土鬼(ドルク)という国が登場すること*4。この土鬼という国が、超能力(超常の力)の持ち主がたくさん住んでいる怪しいオカルト帝国なのだ*5。映画では超常の力はそれほど明確には登場しないが、漫画では重要な要素になっている。ナウシカも徐々に超常の力に目覚めていく。

トルメキア王国*6の皇女クシャナの描かれ方も、漫画と映画では大きく異なる。漫画では勇敢かつ優秀で、さらに部下思いというかなりの傑物なのだ*7。漫画に比べると映画のクシャナはちょっとバカっぽい。まあいずれにせよ、敵国にとってはクシャナは鬼のような奴なんだろうけど。

また、ナウシカの相手役のはずのアスベルが、漫画では後半くらいになるとあまり活躍しなくなる。ナウシカはすっかり伝説の聖女になってしまったから、超常の力を持たず頭脳派というよりも肉体派の彼は、ナウシカとはイマイチ釣り合わなくなってしまったよなぁ。

作品の主題については、映画では自然保護を訴えるような内容だったが、漫画ではより大きなことを訴えている。哲学的な難しいことはよく分からないのだけど*8、欠点はあっても、いや欠点があるからこそ、生命はそれ自体が美しい、「神」に完全に制御された「正しい」世界など真っ平御免、みたいなことを主張しているのだろう*9。それにしても、人類があんな気の長い遠大なことを考えるものかなぁと。

*1:漫画を先に読んでいると突っ込みたくなる部分はいくつかあるけど。

*2:漫画の最後のナウシカの笑顔は、世界の「闇」を知ってしまった後の複雑な表情だからなぁ。

*3:長期にわたる連載だったので、最初と最後では画風が微妙に変わってる。最後のほうのナウシカの顔はちょっともののけ姫っぽいかも。特に「否!」と叫ぶ顔とか。

*4:映画に先駆けて発売されたサントラのイメージアルバムには、『土鬼軍の逆襲』という曲がある。久石譲は漫画のほうを読んで曲の着想を得たのだろう。

*5:土鬼の宗教はちょっと仏教っぽい。結跏趺坐をしているし。ナウシカが「成仏」という言葉を使っているのも印象に残った。

*6:この作品は中世から近世くらいの世界観のようで、民主主義の「み」の字も出てこない。どうやら電気も水道もないようだが、旧時代の遺産である飛行機だけは大活躍している。燃料はなんだろうね。遠い未来の話みたいだから石油はとっくの昔に枯渇しているだろう。

*7:「犬死は無用、蛮勇も許さん、速力が武器だ」というセリフが私のお気に入り。

*8:「虚無」という言葉が頻繁に登場していて、どうやらニーチェ虚無主義ニヒリズム)を意識しているようだ。

*9:宮崎駿遺伝子組み換え作物などには反対の立場なのだろうね。

『紅の豚』(1992年)

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ヒロインが大人の女性(ジーナ)という宮崎駿作品の中では異色作。ジーナ役の加藤登紀子の声のセクシーさには驚いた。

とはいっても本作品でトリックスター的な大活躍をするのは10代の若い女の子(フィオ)で、そういった意味では従来の宮崎駿作品とあまり変わらないのかも。

大活躍するわりには、このフィオの扱いがちょっと不遇かなと。まず映画の予告編には一瞬しか出てこないし、サントラアルバムのジャケットなどにも彼女は登場しない。見た目もあまりオーラがなくて、この映画に初めて登場したとき、私はまさかこの娘がこのあと大活躍するとはまったく予想していなかった。ただ、飛行服(?)を着たときはナウシカそっくりになるね。

舞台は第一次世界大戦後のイタリアなのだが、登場人物がまったくイタリア人に見えないのが面白い(主人公マルコ(通称ポルコ・ロッソ)の好敵手カーチスが唯一イタリア人っぽいが、彼はイタリア人のクォーターとのこと)。宮崎駿の描く外国人はゲルマン系っぽく見えることが多いと思う。

この物語は当然フィクションなのだけど、あれから彼らがどうなったのか思いを馳せてしまう。この後また大きな戦争があったしね。年齢的に、もういまは皆この世にはいないのだなぁ。

さて主題歌は、加藤登紀子が作詞・作曲し自ら歌っている『時には昔の話を』。この映画に合っていると感じた。なんてったってジーナさん自身が歌っているわけだし。

その他の音楽は、例によって久石譲。サントラはホルストの『惑星』っぽく始まる。代表曲は『帰らざる日々』(イメージアルバムだと『マルコとジーナのテーマ』)かな。

『魔女の宅急便』(1989年)

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角野栄子の同名の児童書が原作だが、内容はだいぶ変わっているらしい。主人公の魔女の女の子(キキ)が成長していく物語で、女性が原作ということもあり女性にも受けが良さそうな作品のような気がする(実際のところは知らない)。

とにかく健気でかわいらしいキキが魅力的で、この映画は彼女につきるかも。特に膝を曲げる西洋式挨拶(カーテシーというらしい)をするしぐさがかわいいねぇ。大きなリボンがあざとい気がしないでもないけど、かわいさに免じて許してあげよう。

キキの相手役で丸眼鏡のトンボくんがなかなかのお洒落さんで、ボーダー柄のTシャツに、腰周りにボリュームのあるテーパードジーンズをロールアップ、そして最初に登場するときはセーターのプロデューサー巻き。80年代(1980年代)のフレンチカジュアルという感じで、流行が一周して近年もこの手の格好が復活している。

画家のウルスラの描く印象的な絵は、八戸市立湊中学校養護学級の作品を基にしているそうな。ちょっとシャガールっぽい。

それにしても、この世界の子どもたちは学校には通わないのかな。十分に文明が発達した世界のようなので、キキくらいの年齢なら普通は通いそうなものだが。

さて音楽は引き続き久石譲が担当しているが、主題歌は荒井由実の曲を使っている(久石にとってはあまり気分は良くないだろうなぁ)。少なくともオープニングの『ルージュの伝言』は映画に合っていると思う。普通の女の子が聴くポップスという意図があるのだろう。

魔女の宅急便 ヴォーカルアルバム
もし久石譲が主題歌も担当していたら、たぶんこの『めぐる季節』が主題歌になっていたと思われる(映画では歌のない『海の見える街』が使われている)。これはこれで良い曲。Aメロ部分の音程が不安定な気もするが、この部分は音程の変動が激しくて歌うのが難しそうである。

その他のサントラの曲も、小粒ながら佳曲がそろっているように思う。

『となりのトトロ』(1988年)

となりのトトロ [DVD]
基本的には小さい子ども向け作品だろうけど、大人が観ても楽しめる。さすが宮崎駿は大事なところは外さないなと。

病気の母親を心配する子どもたち(サツキとメイ)の描写が特に秀逸だと思った。ところで、サツキの声が日高のり子なので、どうしても『タッチ』の浅倉南を思い出してしまう。

音楽はおなじみ久石譲。こういう童謡みたいな芸風もあるのね。オープニングテーマの『さんぽ』は、「あるくのだいすき どんどんいこう」という歌詞が好き。

この『さんぽ』と有名なエンディングテーマの表題曲以外の代表曲は、『風のとおり道』だろう。ただ、この曲は坂本龍一っぽいなぁ。

『天空の城ラピュタ』(1986年)

天空の城ラピュタ [DVD]
久しぶりの更新なので、日記の書き方を忘れかけている。

最近は宮崎駿の作品をよく観ている。いま40代以上の人は、年齢的にあまり宮崎駿の作品を観ていないのではなかろうか。私もそのひとりだったのだが、現代の日本の巨匠のひとりなのは間違いないだろうから、しっかり見ておく必要がありそうだなと。引退するそうだし。

カリオストロナウシカは公開してから数年以内に観ているので、まずは『天空の城ラピュタ』から。

スケールの大きな良くできた冒険活劇なのは間違いなく、40代の私でも十分楽しめた。ただ、主人公の2人(パズーとシータ)の年齢くらいのときに観たらより楽しめたのだろうな。それにしてもこの2人、仲が良すぎるので爆発しろと思わなくもない。

物語の基本的な構図は『ルパン三世 カリオストロの城』と同じかなと。西洋が舞台で、ナゾの遺跡があって、勇者がお姫様を救いに行くという展開。

パズーとシータは意外にキャラが立っていなくて、敵役のムスカカリオストロ伯爵の派生型。この作品に深みを与えているのは、懐の深い女盗賊ドーラの存在だろう。

天空の城ラピュタ サウンドトラック 飛行石の謎
音楽は『風の谷のナウシカ』に引き続き久石譲が担当。主題歌の『君をのせて』がいいねぇ。この旋律はインストよりも歌入りのほうが合うと思う。この曲は歌い出しの入り方が難しい。

主題歌の次に重要な曲は、サントラでいうところの『シータの決意』だろう。ただこの曲、『風の谷のナウシカ』の曲に似すぎているのが残念。

あと、イメージアルバムでいうところの『大樹』という曲が良い。サントラでいうところの表題曲『天空の城ラピュタ』の前半。

横浜美術館「ドガ展」

ドガ NBS-J (ニューベーシック・アート・シリーズ)

終了前の年末ということもあり、行列が屋外まで続いていて、30分ほど並んだ。好天の比較的暖かい日で良かった。

個人的には、とにかくパステル画の『エトワール』に尽きるなぁ。もう少し大きな作品だったら鑑賞しやすかったのに(当日は混んでいたので)。構図が整っているのはもちろん、床の色がきれいだ。

ドガ本人も言っているように、画風自体は「古典画家」的だなと。特に油彩画は。

生前に発表した唯一の彫刻作品という『14歳の小さな踊り子』も良かった。衣装の布は当初のものなのかな。